一般的な質問 |
Q1. 交通事故でケガをして通院しているのですが、保険会社の担当の人から健康保険をつかってくれといわれました。交通事故で健康保険は使えるのですか?被害者なのに、自分の健康保険を使って治療することに少し抵抗があるのですが・・・。 |
A1. まず、交通事故であっても健康保険は使えます。(業務中や通勤途上の事故の場合は労災保険の検討をしましょう)ですので、自由診療にするのか保険診療にするかは、基本的に被害者が選択できます。病院のほうで「交通事故の治療には健康保険は使えない」というウソを言っている病院もあるようですが、そんなことはもちろんありません。
被害者の感情からすると、「自分は被害者なのに自分の健康保険を使うなんて・・・」と思われるかもしれませんが、被害者にも過失があるような事故の場合は健康保険を使ったほうが被害者にとってもメリットがあるということを知っておきましょう。
一般に交通事故の治療費は通常の病気などの治療費と比較してかなり高額となります。当然被害者にも過失があるときは、治療費についても被害者の過失の割合に従って、被害者自身が一部治療費を負担しなければいけないのですが、このときに健康保険を使っていないと治療費がかさみ、自分の手元に残る金額が減ってしまいます。ですから治療費はできるだけ安く抑えておいたほうがよいので被害者も自分の健康保険を使う必要があるのです。
被害者に過失が全くない場合は、治療費の負担は全額相手方が負担することになりますが、この場合でも、相手方が自賠責保険にしかに加入しておらず、さらに自賠責保険の限度額を超える部分を支払う能力がない場合には、足りない分は被害者が負担しなければならない事態が発生する可能性があります。
ですので、治療が長期間に渡りそうな場合や、相手方の資力に疑問のあるときは、病院にその旨説明し保険診療に切り替えてもらいましょう。
現在、交通事故の被害者の人のほとんどは、交通事故の治療にあたって健康保険を使わずに自由診療で治療しているということです。最初に言ったとおり、病院のほうで「交通事故の治療には健康保険は使えない」というウソを言っている病院もあるので、そういったこともひとつの原因でしょうが、単に健康保険を使えるということを知らない方も多いようです。交通事故の治療にも健康保険は使えますので、特に自分にも過失がある場合には健康保険を使うようにしてください。
また、病院から「保険診療ではできない治療がある」といわれることがありますが、最近では、保険のきかない治療というのは非常に限られておりますので、保険がきく治療については保険診療で、保険がきかない治療については自由診療でお願いするのがよいでしょう。
尚、交通事故でケガをした場合に保険診療に切り替えるためには、「第三者行為傷病による届出」を保険者に提出する必要があります。
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Q2. 当て逃げされてしまいました。ナンバーを控えていたので警察には届け出たのですが、もしも加害者が見つからない場合は、車の修理費をはじめ、治療費などは自分で負担するしかないのでしょうか? |
A2. もしナンバーを控えてあるのであれば、陸運局に照会して加害車両の登録事項現在証明書というものを入手することができるので、加害車両の所有者・使用者の住所を割り出すことができます。
ただし、ナンバーについてはその内容をひらがなや分類記号などを含めて、すべて正確に把握していなければなりません。また、二輪車および軽自動車には、この制度はありません。
ここから加害者を見つけ出すことができれば、当然加害者に連絡し損害の請求をしていくことが可能となりますが、通常、当て逃げをする人というのは任意保険にも加入していない場合が多く、また示談書を交わしても、いざ支払いということになったら払ってくれないということがよくありますので、加害者との間で素人同士が作成する示談書は大変危険でトラブルとなることが多いです。ケースによりますが、加害者に対して送る通知書は専門家に依頼して作成してもらい、通知書に対する加害者の対応などから加害者の支払い能力や支払いの意思などを探ってもらう必要があります。
ではもし、陸運局に照会したけれど抹消登録されていたりして加害者がわりだせなかったときは全て損害額を自己負担しなければいけないのでしょうか。
この場合は、最終的な手段として政府の保障事業へ支払いを請求することができます。
ただし、この制度はあくまで最低限のものを保障しているにすぎないものであるため、認められる治療費は健康保険の単位のみであったり、自賠責にはある仮渡金や内払いの制度がなく2年で時効になることや、支払いまでに半年から1年ほどかかるなど、被害者の救済の観点からは不十分な内容のものとなっています。
また、この制度は自賠責をもとにしたものであるため、物損事故の場合は対象外であり、車の損害については請求することができません。
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Q3. 事故の原因として違法駐車の車の責任を問うことは可能ですか? |
A3. 違法駐車の車が原因で事故が発生することはしばしばあります。特に多い事故形態として違法駐車の車両に追突するというものがあります。このような事故の場合、以前は事故の過失割合を判断するにあたっては、追突車両側が加害者、駐車車両
の側が被害者として扱われることが多く、 追突車側の前方不注視の過失が強調される傾向にありました。
しかし、最近では、夜間における二輪車の駐車車両(とりわけ大型車)への追突事故が増加していることもあり、(その原因として大型車のテールランプの位置の高さによる遠近感の錯覚現象や二輪車運転中の視線の位置が四輪車の場合と異なり手前に寄っていること等がある)、この種の事故については、判例でも駐車車両に厳しい判断がなされるものが増えてきています。以下は判例の抜粋です。
二輪車の大型車両への追突事故の際の過失割合を判断するに際しては、安易に追突車側の前方不注視の過失に偏るべきではなく、具体的事案に即して駐車車両及び追突車両それぞれの過失の程度を比較考量したうえで決すべきである。
そして、前記認定の道路状況、駐車場所等の駐車状況等を勘案すると、本件事故現場に被告車のような大型クレーン車を何らの警告措置も講ずることなく一晩中駐車させることは交通の妨害になるばかりか、極めて危険な行為であるといわざるを得ず、また、被告が被告車を右の場所に駐車したのは、翌朝保管場所に被告車を取りに行く手間を省くためという身勝手な事情に基づくものであって、かかる危険な場所に駐車すべきやむを得ない理由は何ら存しない。
他方、追突したAの過失は、被告車を若干確認しにくい事情があったにせよ、運転者としての基本的な注意義務である前方注視を怠ったというものであり、重大であるといわざるを得ない。
結局、右の被告の過失と追突したAの過失を対比し、その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、追突したAの過失割合は60パーセントと解するのが相当である。
*最近の判決では、駐車禁止区域に駐車した加害貨物車に、制限速度を10`b超過して進行してき た被害原付自転車が追突した事案で、加害車運転者が以前にも同様事故を惹起させていたこと等から、被追突の加害車に65%過失を認定したものもあります。
追突事故以外にも、事故の発生原因として違法駐車車両が関係している場合には、違法駐車車両の運転者への責任を追及することが可能ですが、ナンバー等がわからない限りはこの責任追及は無理です。ですから、違法駐車車両が事故原因の一部となっていると考えられる事故の場合には、ナンバーを記録するとともに位置関係を記録し、かけつけた警察にもこの違法駐車車両のことを報告しておく必要があります。
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Q4. 交通事故に遭いました。そのときは何ともないと思っていたのですが、今になって体の調子が悪くなってきました。警察には体は大丈夫といってしまったのですが・・・これからでも人身事故にできますか? |
A4. 事故直後は自分が事故を起こしたことで気が動転していたり、興奮状態で体の異常に気がつかないものです。数日たってから体の異変に気づきあわてて病院に駆け込むという場合もあるでしょう。
このような場合、事故現場で警察に人身被害を報告していないので「物損事故」として処理されていますが、保険金を請求する上では、警察署に行って「人身事故」へ切り替えてもらう必要があります。
具体的には、病院で、「警察へ提出するための診断書」を書いてもらい、事故発生場所を管轄する警察署にこれを届けることが必要です。事故から病院へ行った日の間隔が短い場合であれば切り替えが認めてもらえると思います。
もし、切り替えが認められない場合でも、物損扱いの「交通事故証明書」に「人身事故証明書入手不能理由書」を添付すれば、人身傷害分の保険金を請求することができます。
なお、被害者の中には、事故直後に怪我がたいしたことがないということで、加害者のほうから「賠償のほうはきちんとしますから物損で処理してください・・・」とお願いされて、物損として届出をするというケースがよくあるようですが、上記のように、怪我の症状が数日経ってから現れることも決してめずらしいことではありませんので、このような誘いには応じるべきではないでしょう。
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Q5. 過失割合・過失相殺ってなんですか? |
A5. 「過失割合」という言葉は、交通事故にあったことのない人でも一度くらいは耳にしたことがあるのではないかと思いますが、この「過失割合」の問題は交通事故の解決にあたって避けて通れません。
「過失割合」というのは簡単にいうと、交通事故の原因となる落ち度が、事故当事者にそれぞれどのくらいあったのかを判断して、損害の公平な分担を図るというものです。
たとえば、AさんとBさんの交通事故はBさんのセンターラインオーバーが原因で起こったとしましょう。Aさんは、直線道路を走っていただけですから、Aさんの過失というのは通常は考えにくく、Aさんの過失割合は0%ということになります。
しかし、もし、この事故当時、Aさんが居眠り運転をしており、さらにかなりの速度違反もしていたとしましょう。この場合には、Aさんにも事故発生の原因をつくっているわけですからAさんにも過失があることになるわけです。
「過失割合」は、このように事故の具体的状況によってどちらにどのくらい事故の原因となる落ち度があったのかという割合を示すものなのです。
この「過失割合」の問題は、交通事故の損害賠償請求においては、非常に重要な意味を持ちます。というのは、この「過失割合」にしたがって、損害賠償額が「過失相殺」されるため、請求できる金額が「過失割合」によって大きく異なってくるからです。
「過失相殺」という言葉を使いましたが、「過失相殺」については少し説明が難しいので、イメージをつかんでもらうために例をあげてみましょう。
ケース AさんとBさんが車同士の事故をおこしました。 AさんBさんともにケガを負い、車も事故によってへこみました。 |
まずはじめに、AさんBさんは、それぞれ相手方に事故によってこうむった損害を賠償するように請求できるということは容易にわかると思います。
すなわち、AさんはBさんに対して
車の修理費用+治療費・慰謝料など=Aさんの損害額 を請求できる。 |
一方、同様にBさんもAさんに対して
車の修理費用+治療費・慰謝料など=Bさんの損害額 を請求できる。 |
ということになります。
さて、この事故ではAさんはベンツを運転していたとします。一方Bさんはカローラを運転していたとします。それぞれ計算してみたところ、
Aさんの損害額(ベンツ+治療費・慰謝料など)=1000万円
Bさんの損害額(カローラ+治療費・慰謝料など)=100万円
であったと仮定します。
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この金額を前提にそれぞれの額を「過失相殺」することになるわけですが、この事故でAさんの過失が90%、Bさんの過失が10%であったとします。
この場合の計算式はどうなるのかというと、Aさんの損害額(1000万円)のうち90%はそもそもAさんの過失によって生じた損害であるため、AさんはBさんに対して損害額を請求することはできません。
Aさんが請求できるのは、Bさんの過失分、すなわち10%分のみということになります。
ということは、AさんがBさんに請求できるのは
Aさんの損害額1000万円×10%(Bさんの過失分)=100万円のみです。 |
同様にBさんも、Aさんに対して100万円すべては請求はできず、100万円のうちAさんの過失の部分のみが請求できるということになります。
ということで、BさんがAさんに請求できるのは
Bさんの損害額100万円×90%(Aさんの過失分)=90万円ということになります。 |
結局、AさんはBさんに対して100万円請求し、BさんはAさんに対して90万円を請求できるということになるわけです。このときAさんがBさんに90万円、BさんがAさんに100万円をそれぞれ支払ってもよいのですが、それは面倒なので実際はBさんのみが10万円支払うことになります。このことを相殺といいます。
ということで、結局、差し引き10万円をBさんがAさんに対して支払うということになります。
以上のような計算を「過失相殺」というわけですが、ここで重要なことは、事故によって自分のこうむった損害額がどんなに大きくても、自分の過失割合が大きければ、実際に自分の手元に入る金額は少額になってしまうということなのです。
死亡事故を例にみてみると、通常、死亡事故であれば遺族には大変な損害が生じますから、損害額は莫大な額となるわけです。しかし・・・その事故では被害者に100%過失があったとしたら、その被害者の遺族は一銭も損害賠償を請求できなくなってしまうのです。逆に、場合によっては相手に生じた損害を賠償しなければいけないということになるのです。
これを保険会社の立場からみてみると、保険会社は被害者にいくら大きな損害が生じていても、過失さえ被害者に押し付けることができれば、自分の会社が支払う金額がぐっと減るということになり、過失割合についてはなんとかして被害者側の過失を増やそうと懸命になるということが起こるわけです。
特に、死亡事故においては、まさしく「死人に口無し」という扱いで、被害者本人が証言できないということをいいことに、加害者の一方的な証言によって事故の発生状況がねじ曲げられ、過失割合について、加害者の過失が0%とされ、保険金が一銭も支払われないということが起こりえます。
「この事故の場合の過失割合は○対○と決まっています。」「どんな事故であってもハンドルを握っている限り、あなたにも過失がある・・・。」ということを言われても、鵜呑みにしてはいけません。過失割合は、あくまで事故の具体的状況によって違い、それこそ千差万別に判断されるものだということを覚えておいてください。
「過失割合」について、相手に主導権を握られないためには、被害者は、事故がどのように起こったのかについて、示談を進める前に、過失割合についての予備知識を身につけ、証拠収集に動き、事実に反することが証言されたら、それに対して反論できる準備を整えておく必要があります。
基本過失割合を知りたい方は、こちら
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Q6. 自賠責保険に保険金を請求したいのですが、こちらの過失分についてはどのように計算すればよいのでしょうか? |
A6. 自賠責保険は、被害者救済のための強制保険という性格から、被害者に重大な過失がない場合を除いて、過失分が減額されることはありません。具体的に言えば、被害者の過失が7割未満の場合には、全額が支払われることになっています。
過失割合と減額率の関係を見てみましょう。
過失割合 |
傷害事故 |
後遺障害を残す事故 |
死亡事故 |
7割未満の場合 |
減額なし(全額支払われる) |
7割以上8割未満 |
2割減額
(8割支払われる) |
2割減額 |
2割減額 |
8割以上9割未満 |
3割減額 |
3割減額 |
9割以上 |
5割減額 |
5割減額 |
※被害者の過失が10割の場合や、故意のある場合は、保険金は支払われません。
※後遺障害や死亡と事故との因果関係が不明の場合は、5割減額されます。
※死亡・後遺障害を伴わない軽いケガの場合は、損害額が20万円以下の場合に限り減額されません。
どのような事故でも、過失が7割未満の場合には全額支払われますが、7割以上過失がある場合には「傷害事故」と「後遺障害事案」「死亡事故」では、減額率が変わってくることが分かると思います。「後遺障害事案」「死亡事故」の場合、保険金額も多額になりますので、過失割合が1割違うだけで、保険金額への影響も大きくなることがあります。その意味では、過失割合をきちんと認定してもらうことが重要になります。
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Q7. 保険会社の提示する金額に納得がいかないのですが、裁判は時間がかかるっていうし、お金も余計にかかりそうだし、あきらめて保険会社の提示する金額で示談するしかないのでしょうか? |
A7. そんなことはありません。保険会社が最初に提示してくる金額というのは、事故の内容にもよりますが、たいていの場合低めに提示してくるのが通常です。
実際、保険会社のほうとしては、まず低めの金額で提示しておいて、その後こちらの態度をみながら少しずつ金額を上乗せしてきます。
被害者としては、まず、「何がいくら請求できるのか」を把握し、その上で、その請求の根拠と共に、自分が請求したい額を保険会社に提示するということが重要です。被害者の主張がしっかりした根拠付けのあるものであれば、保険会社としても、それに対してむやみな回答はできないはずです。
実際に、それまで「払え」「払わない」の押し問答で、硬直状態にあった示談状況が、被害者が「損害賠償請求書」という形で、こちらの請求をその根拠と共に提示したところ、「請求書を拝見させていただきました。内容を見させていただいた限り、〇〇様もしかるべきところに相談にいかれたこととお察しします。つきましては、こちらより改めて示談額の提示をさせていただきますので、よろしくご検討ください。」等の回答によって再提示を受け、少しずつ示談金額が上がり、示談がスムーズに成立したケースが当事務所では多々あります。
示談においては何より、相手方に、こちらにも交通事故の損害賠償に関して、ある程度の知識があるんだぞ、泣き寝入りはしないぞ、ということを示すことが大切です。
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Q8. 少額訴訟ってどんなものですか? |
A8. 少額訴訟とは、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭支払請求をするときに、少ない費用と時間で紛争を解決することができる訴訟制度のことです。
訴訟というと、なんだか難しそうと腰が引けてしまう人も多いかと思いますが、この訴訟手続きは国がそもそも訴訟をもっと身近に利用してもらおうという趣旨で始めたものであるため、素人の人にもわかりやすいように、裁判所も親切にいろいろと教えてくれます。(少額訴訟を含め、簡易裁判所での訴訟については、その約90%以上が弁護士をたてることなく、当事者本人が行う本人訴訟であるとの統計が出ています。)
少額訴訟のメリットとしては、費用が安いということ、原則的に1回の期日内に審理が完了され(ただし被告が少額訴訟手続きに同意しない場合や、裁判官の判断により、通常の裁判に移行されることもあります)、口頭弁論の終結後直ちに判決が出されるので、裁判所に何度も足を運ぶ必要がないということ、また当然のことですが、判決に相手は従わなければならないということなどがあげられます。
少額訴訟の限度額は従来は30万円でしたが、平成16年4月より限度額が60万円に引き上げられましたので、被害者にとってはますます活用しやすくなったといえますが、実際に利用できるのは、過失割合についての争いがない物損事故のケースや、通院事故の場合で先に自賠責保険へ被害者請求をした上で不足分について請求をしていくような場合に限られるでしょう。
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Q.9 交通事故紛争処理センターに行こうと思うのですが、注意点はありますか? |
A.9 「財団法人 交通事故紛争処理センター」や「財団法人 日弁連交通事故相談センター」などの斡旋機関を利用する場合でも、事前に妥当な請求額はいくらなのかということをはじめ、その証拠資料や請求の根拠をはっきり示しておくことが肝心です。
何も準備せずにこれらの機関に行ったところ、これらの機関から「それでどうしたいの?」「だから、いくら請求したいのですか?」「その金額をお考えであれば、裁判しかないですよ。」などと言われ、「被害者のための機関ではないのか!」との怒りの念を持ったという声を聞くこともしばしばです。
そもそも、これらの機関も示談の斡旋機関である以上、被害者の請求額が不当なものであれば認めてもらえないのはもちろんのこと、被害者自身、自分の請求したい額がその根拠とともにはっきり示すことができないと、機関が裁定した金額が、果たして妥当なものかどうかということを判断することができません。少なくとも請求したい額、最終的にどのあたりの金額なら納得できるのかということは事前に検討しておき、請求のための証拠類などを準備したうえで利用することをお勧めします。
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Q.10 損害賠償を請求するのに、時効はありますか? |
A.10 請求権の時効は自賠責保険に対するものは2年、任意保険会社に対するもの、裁判の場合には3年となります。期間が経過する前に忘れずに時効中断の手続きをとるようにしてください。気をつけなければならない例としては、相手方が任意保険に加入していないというケースで、自賠責にも請求をしておらず(治療費も被害者が全て自己負担)、治療が長引いている場合などです。このような場合には、被害者が時効中断のことに気づかず、この期間が経過してしまい請求権がなくなってしまうことがまれにあるそうです。
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Q.11 加害者側の保険会社の担当の人に「加害者本人が自分に責任はないと主張しているので、保険会社としては対応ができない」と言われて困っています。どうすればよいのでしょうか。 |
A.11 まず加害者が保険会社と契約している保険契約の内容をもう一度確認してみる必要があります。もし加害者が示談代行保険に加入していれば、(通常SAP・PAPといわれる任意保険には示談交渉サービスがついています)被害者であるあなたは「被害者による直接請求権」を保険会社に対して行使することができます。
「被害者による直接請求権」とは、被害者から保険会社に対して直接保険金を請求できるというものです。示談というものは原則的には加害者と被害者との間で交わされるものであるため、通常被害者としては加害者本人に損害賠償金を請求しなければいけないのですが、この「被害者による直接請求権」を行使すれば被害者であるあなたは保険会社に対して直接損害賠償金の請求ができることになります。
保険会社の担当者によってはこの「被害者による直接請求権」について知らない人もかなりいるので要注意です。
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Q.12 事故後私は救急車で運ばれたため、事故現場で事故の発生状況について警察に話すことができなかったのですが、どうも警察が事故現場にいた加害者の一方的な供述をもとに調書を作成しようとしている気がしてなりません。明日、現場検証を行うとのことですが、どうしたらよいのでしょうか? |
A.12 一般的な現場検証では、警察官が、加害者・被害者双方を現場に呼び、聞きとった事情を実況見分調書、現場見取図などにまとめ、現場の写真をとり、供述調書等を作成します。 この実況見分の目的は、事故が発生した正確な状況を捜査し、加害者の刑事処分を決めるための資料として後日検察庁に送ることにあります。ですから、実況見分に立ち会うときには、事故当事者は嘘はつかない、分からないことは分からないと答えなければならないはずです。
ところが、事故当事者にとってみれば、事故の発生した状況をこと細かく覚えているなどということはそうあることではなく、また、加害者は往々にして自分に有利な説明をしてしまいがちです。
とりわけ、被害者が事故によってケガをし、救急車で運ばれてしまったようなときには、先に加害者だけの実況見分を済ませ、後日被害者の実況見分を行うということも少なくありませんので、このような場合に、先に実況見分に立ち会った当事者の意見が、後に立ち会った当事者の意見とまるっきり食い違うといったことが起こることがあります。
もし、このようなことになってしまったら、実況見分に立ち会うときには、違うことは違うと否定することが重要です。中には、実況見分をする警察官が、先に実況見分を行った当事者の意見に沿った心証をもっていることもありますが、警察官に誘導されることのないように、違うものは違うと否定する勇気を持ってください。
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Q.13 示談の内容を示談後に変更することはできるのでしょうか? |
A.13 これは、原則できないものとお考えください。示談は和解契約ですから、示談書に判をついた時点で(正確には口頭でも)和解契約が成立してしまいます。ですから、その示談が詐欺や強迫によるものであるなどの特別の事情のない場合には、示談を反故にすることはできません。
但し、示談した後に発生した後遺症損害については、別途請求することができる場合があります。
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Q.14 ケガをした場合に、示談交渉を開始する時期はいつごろからでしょうか? |
A.14 後遺症が残らない事故の場合の入通院慰謝料は、入院期間・通院期間などから算定しますので、最終的にはケガの完治または完治の見込みを待って示談を開始します。後遺症が残るようなケガの場合は症状固定の診断が出て、等級認定が無事に済んでからということになります。
ただ、治療中に仕事を休んだりすると、経済的に苦しくなってしまいますので、自賠責保険の「仮渡金」と「内払金」についても知っておきましょう。これらの制度は自賠責保険上の制度で、被害者が加害者との示談がスムーズに進まなくて当面の費用にも困ってしまうということがないように、被害者から自賠責保険会社へ当面のまとまった費用を請求できるという制度です。
「仮渡金」は、当面の入院費用などが支払えない場合にある程度のまとまった費用を請求することのできる制度です。ケガの場合には症状や治療日数に応じて5万円から40万円の一定金額を請求することができます。請求から1週間くらいで仮渡金を受け取ることができます。この制度は請求から振込みまでが早いのが特徴ですが、使えるのは1回限りです。
「内払金」は、治療期間が長くなってしまったときに、ケガをした方が自分で治療費を払っていたり、仕事を休んでいるような場合に請求できます。こちらは振込みまで1ヶ月くらいかかりますが、自賠責保険の限度額の120万円までは何度でも利用できます。ただし、自分で支払った治療費や休業損害などの合計額が10万円以上になることが必要です。
なお、先日、「保険会社から、主婦の場合には、内払いの制度は使えませんよ」と言われましたが、これは本当ですか?との質問がありました。内払いにこのような制限はありません。
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後遺症が残る事故 |
Q.6 事故に遭い後遺症が残ってしまったのですが、保険会社の言う後遺症の等級に納得がいきません。どうすればよいのでしょうか? |
A.6 後遺症は損害保険料率算出機構(旧自算会)という機関が認定することになっています。
「非該当」や「等級に納得がいかない」場合には、この機関に対して、異議の申立てを行うことを検討しなければなりません。
さて、この損害保険料率算出機構がどのように後遺症を認定しているのかというと、そのほとんどが医師の書いた症状固定の診断書(後遺障害診断書)に基づく書類審査です。
被害者の体について一番良く知っているのは、実際に被害者を治療してきた医師であり、その医師が、後遺症があるということで診断書を書いているのですから、そこには一定の信用性があっていいかなとは思うのですが、そうすんなりいかないのが現状です。
異議申し立ては、自賠責の保険会社経由で、これもまた書面で行うことになっていますので、被害者としては「何が原因で非該当とされたのか」を十分に検討した上で、異議申し立てに際しては、きちんとした根拠とその立証資料を用意した上で臨む必要があります。
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Q.7 交通事故にあい、顔に傷がついてしましました。女性である私にとって顔の傷はとてもショックで、立ち直れないほどです。加害者側の保険会社の担当の人にこの気持ちをぶつけて「慰謝料を上乗せして欲しい」といっているのですが、「これ以上払えない」の一点張りです。慰謝料の額というのはどのように決まるのですか? |
A.7 慰謝料とは、交通事故により負ったケガに対して、被害者が負った肉体的、精神的苦痛に対する迷惑料のようなものです。このことからすれば、本来慰謝料の額というのは、被害者がそのケガに対してどう感じるかによって人それぞれ違いがあるものといえますが、交通事故の場合は、被害者が負ったキズの程度によってあらかじめ、慰謝料の額が定額化されています。
保険会社が提示してきた金額はいくらであったのでしょうか。顔に負った傷の程度にもよりますが、顔のキズが3センチ以上の場合は、女性の場合一番低い基準である自賠責基準で、慰謝料の額は93万円となります。また5センチ以上のキズの場合は409万円です。
気をつけなければいけないのは、ここでいう慰謝料の額はあくまで後遺障害に対する慰謝料の額であるため、傷害に対する慰謝料(入通院慰謝料)とは別に受け取れるということです。この点について、保険会社の担当の人によっては、被害者の無知につけこみ、すべてまとめて慰謝料として提示してきたりして、支払いを少なくしようとする場合もありますので、この点を確認してみる必要があると思います。
また、これは慰謝料ではありませんが、顔のキズによる後遺障害で、自賠責への請求の場合には、逸失利益というものが認められています。ですから、慰謝料という名目では認められなくても、逸失利益のほうで希望する金額が認められる可能性もあります。
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Q.8 後遺症の逸失利益について、保険会社は実際に仕事に支障がでているわけではないとの一方的理由により認めないと言っています。どういうことでしょうか? |
A.8 これは、逸失利益というものをどのように考えるのかによって異なってきます。
逸失利益について、事故前の収入と事故後の収入額との差額であると考えるのであれば、事故前と事故後を比較して何の変化もない場合には逸失利益はないと考える立場・・・・・これを差額説といいます(通常保険会社が主張する説)
これに対して、単に収入の差額を計算するのではなく、後遺症によって労働能力の喪失や低下があれば逸失利益は認められると考える立場・・・・・これを労働能力喪失説といいます(被害者が主張する説)
当然、被害者としては労働能力喪失説を主張したいところですが、保険会社はここで差額説を使ってつっぱねてくるわけです。
この逸失利益の考え方、実は裁判所での見解も分かれています。もし、この逸失利益を争うべく裁判を起こしたとしても、逸失利益が認められるかどうかは微妙です。(ただ、差額説をとっている裁判官であっても、逸失利益を認めないかわりに、被害者の事情をくんでその分は慰謝料の分に上乗せしてくれることもあります)
逸失利益については、このほかにも難しいところがあり保険会社との交渉には相当の術を要しますので、専門家にアドバイスを求め、そのうえで示談交渉にあたることをお勧めします。
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物損事故 |
Q.3 購入して1年しか経っていない車で事故に遭い、車にキズがついてしまいました。保険会社は修理すると言っていますが、修理をしても下取りのときに事故車ということで安く見積もられてしまうと思うのですが、この点についての賠償を求めることは可能ですか? |
A.3 事故後、事故によって破損した車は修理に出すわけですが、事故車というのは下取りに出したときにたいてい評価が下がります。このことを格落ち損と言い、物損事故の場合、この格落ち損についてよく争いになります。
特に、被害者の車が買ったばかりの新車の場合、被害者としては事故によって自分の車の価値が下がってしまったわけだから、「かわりに新車をもってこい!」とまではいかなくても「価値が下がってしまった分だけでも損害を賠償してほしい・・・」と思うのではないかと思います。
しかし実際のところ、この格落ち損について、保険会社はなかなか認めないというのが現状です。
この格落ち損、裁判所の判例によれば、車の事故前の価格や、車種、市場性、損傷の部位・程度などを考慮しつつ、購入からの期間が短い場合には通常修理費の1割から3割程度は認められる傾向にあります。
ですので、購入からの期間が短い場合には、判例を示した上で「修理の明細書」「事故車の写真」「裁判資料」「事故減額証明書」などの証拠資料をできる限り集めた上で、粘り強く請求していくようにしましょう。
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Q.4 修理費が時価を超えるので、時価額での賠償であると言われました。本当でしょうか? |
A.4 これは本当です。物理的には修理可能な場合であっても、修理費用と車の時価とを比較して修理費が時価を超えるときは、修理費用は請求できず、時価額のみの請求となるということです。その理由は、時価額を賠償すれば被害者としては事故車両と同種・同等の車が時価額で購入できるからということです。
被害者からしたら、これは納得がいかないことかもしれません。
たとえば、仮に事故にあった車の時価額が100万円で、修理費が200万円かかったとしましょう。
このケースでは、修理費が時価額を超えています。ということは被害者は修理費は請求できず、修理不可能な場合となり、時価額しか請求できないということになります。
このことを、経済的全損といいますが、被害者としては「車をぶつけられて、修理費も全額認められないなんてどういうことだ!」「その時価額で自分の車と同じ車が買えるのなら買って来い!」といいたいところでしょうが、交通事故の損害賠償では、この経済的全損は、確立されたルールであり、争うのは残念ながらまず難しいといえます。
被害者としては、経済的全損については割り切って納得し、時価額を少しでもあげる努力をしていくほかないというのが現状です。
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